<速報>電力小売に導入が計画される「中長期調達義務」:そのCO2削減と先物取引市場に与える影響とは?

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「中長期調達義務」とは何か?

電力の安定供給をめぐり、小売電気事業者に新たな制度の導入が検討されています。そこで注目されているのが「中長期調達(量的=kWhの供給力確保)」です。将来の販売需要を見込み、数年前から契約などで“現物の電源”を確保しておく考え方で、導入されれば電力市場の景色は大きく変わりそうです。

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制度の骨格イメージとして示されているのが、「実需給の3年度前に想定需要の5割、1年度前に7割」といった水準で、あらかじめkWhを確保していく方向性です(小規模事業者への配慮も含め詳細は今後議論)。詳しい資料は、エネ庁公表の検討資料(2025年8月8日)にまとまっています。

電力小売の現場にとっての課題は、「調達を前倒しで固定する」こと自体が、与信・契約実務・ロードカーブ対応・価格形成まで一気に難度を上げる点です。

実は、この制度の設計については、2つの、別の次元での大きなムーブメントとの整合性の確保が必要です。

第1の課題:電力先物市場との整合性

第一の課題は、現在急拡大する電力先物市場との整合性です。電力先物市場取引は「差金決済」方式を採用しており、金や原油といった通常の商品先物取引のような、期日に現物を受け渡す仕組みになっていません。ある意味で、純粋な金融取引といってもよいでしょう。

従って、電気小売事業者にとっては、価格変動リスクへのヘッジの役割は期待できるのですが、「中長期調達義務」の趣旨に則した、「現物」としての電力を確保することには必ずしもつながりません。

そこで、電力先物市場取引のあり方も含めて、再整理が必要となってきます。

第2の課題:GHGプロトコル Scope2:アワリーマッチングとの整合性

もう一つ同じくらい重要な課題は、時を同じくして2030年に施行が計画されている、GHGプロトコル Scope2の新ルールとの整合性の確保です。

現在国際社会では、“時間一致に近い再エネ調達(再エネアワリーマッチング)義務を大企業に実質的に課すよう、制度設計が議論されています。GHGプロトコル事務局では、電力市場全体の取引量の過半数が対象になると想定しています。

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従って、市場全体の取引量の過半を占める大口電力需要家は20年以上のコーポレートPPA契約を結んで再エネ電源を確保する一方で、小売電気事業者は、3年前までに7割のLNG火力を購入する契約を締結して確保しなければならないと、仮になった場合、どうなるでしょうか?

実際に想定される需要を大幅に上回る売電契約が事前に締結されることになります。これは小売電気事業者の収益を圧迫し、また電力システム全体で効率性を著しく低下させる原因となり得ます。

インフレが定着化する中で、日本でも今後データセンターの建設が進み、データセンターだけで電力需要が10年以内に700万KW(原子力発電所7基分)も増加するという予測もあり、電気料金が大幅に高騰するリスクもあります。

多元的な視点に立った制度設計を

一番避けなければいけないのは、投資の不確実性です。整合性のある政策や規制の予見可能性を高めていくことが3E+S(エネルギーの安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境への適合(Environment)、安全性(Safety))を確保するうえでマストです。

再エネアワリーマッチング研究所(当協議会にあるシンクタンク)では、各種の分析を行っており、このような複合的な課題を多元的に俯瞰して、最適な制度設計を行えるよう貢献してまいります。

(詳しくは、電力ニュースの深堀をご覧ください)