(3)AMIで、再エネ調達・PPA・クレジット・市場メカニズムはどう再定義されるのか

AMIが見据える「電力調達のインパクト評価」

· AMI,AMI総括

再エネ調達・PPA・クレジット・市場メカニズムはどう再定義されるのか

GHGプロトコルが進める AMI(Accounting and Market Instruments Initiative) は、Scope 2をはじめとするインベントリ基準とは異なるレイヤーで、企業の行動や市場手段が**電力システムや排出構造に与える影響(インパクト)**をどう捉えるかを整理しようとする取り組みです。AMIでは、再エネ調達、PPA、クレジット、市場メカニズムといった手段を「排出量を割り当てる道具」ではなく、「変化を起こす行為」として扱うことが前提になっています。

以下では、それぞれについて、現状と問題意識、そしてAMIが向かおうとしている方向性を整理します。

① 再エネ調達(Renewable Energy Procurement)

現状

現在の再エネ調達は、Scope 2のマーケット基準(MBM)において、EAC(非化石証書等)やPPAを通じて排出係数を低減する手段として扱われています。これは排出量の配分(インベントリ)としては機能しますが、その調達が電力システムに何をもたらしたかは評価対象外です(GHGプロトコルScope 2の基本構造はこちらで説明されています → GHG Protocol Scope 2)。

問題意識

TWGやAMI関連の議論では、「同じ再エネ調達」という言葉の中に、

  1. 既存電源の属性移転
  2. 新規投資を誘発する調達
  3. 系統制約を緩和する調達

が混在していることが問題視されています。インベントリ上は同じ扱いでも、影響は大きく異なるという点です。

今後予想される議論

AMIでは、再エネ調達を

  • インベントリ用(Scope 2)
  • インパクト説明用(AMI)

に切り分け、後者では「その調達が新規容量・時間帯・地域にどのような変化をもたらしたか」
を定性的・定量的に説明する枠組みが整備されていくと見られます。数値一辺倒ではなく、影響ストーリー+補助指標が中心になる可能性があると予測しています。

② PPA(Power Purchase Agreement)

現状

PPAは、Scope 2では代表的なマーケット基準手段として扱われていますが、改定議論では

  • 同時同量
  • 供給可能性
  • レガシー条項

といった要件が加わり、「PPAであっても無条件に高品質とは言えない」整理になりつつあります。

問題意識

Scope 2では、PPAがどれだけ排出量を下げたかしか見ません。一方、TWGサブグループ(MIM検討)やAMIの文脈では、

そのPPAがなければ発電所は建たなかったのか

  • 系統のどこに、どの時間帯に影響を与えたのか
    といった「反実仮想(counterfactual)」が重要視されています。

方向性

AMIでは、PPAは

インベントリ上の排出係数とは切り離して、投資誘発性・長期固定価格・リスク移転といった観点からインパクトを説明する代表的な手段として整理されていく可能性があります。

この場合発電事業者側も、単なるkWh供給ではなく、「どのような影響説明に使えるPPAか」について説明責任を負うという議論がなされてくる可能性があります。

③ クレジット(証書・オフセット等)

現状

クレジットは、Scope 2では原則として排出量算定の手段ではなく、Scope 3や別枠の報告で扱われています。Scope 2 TWGでも、クレジットをインベントリに組み込むことには強い慎重論があります。

問題意識

一方で、クレジットは「何も評価しない」わけにもいかず、

  • 追加性
  • 永続性
  • 二重計上防止

といった論点をどう扱うかが、AMIの関心領域に入っています。特にエネルギー属性証明書(EAC)やオフセット証書は、再エネ調達との関係整理が未成熟です。

方向性

AMIでは、EACは

排出量の代替ではなく、「行動の影響を補足的に説明する手段」として位置づけられる可能性があります。数値の足し引きではなく、「どの課題をどこまで補完したか」を説明する枠組みが検討されると考えられます。

例外規定で述べた、免責基準を超える企業には、2030年からは、用いられるEACの同一領域内でのアワリーマッチングの担保が求められる可能性があります。その場合、日本においては、現在のまま非化石証書を適用することが難しくなり、時間性のあるEAC(GC-EAC)の活用など、何らかの対応が必要となることも想定されます。

6. 提案されている改訂では、エネルギー属性証明書または「EAC」(GEC、GO、RECなど)の購入は、企業のスコープ2のマーケット・ベースの排出量の削減にカウントされますか?

はい。提案されている改正案では、EACはマーケットベースの手法を通じて電力の最終消費者に電力からの排出量を配分するための有用なツールであり続けます。ただし、現在の提案では、免除基準を超える企業の場合、EACは物理的に配達可能であり、電力消費時間ごとに時間調整されている必要があります。

Section image

④ 市場メカニズム(Market Instruments)

現状

市場メカニズムには、FIT/FIP、容量市場、炭素価格、証書市場などが含まれますが、Scope 2では基本的に「外生条件」として扱われています。企業はそれを選択する立場にあるだけで、影響評価は行いません。

問題意識

TWGやAMIの議論では、「企業の選択が市場メカニズムを通じて系統や投資判断に影響する」点が無視されているという認識があります。特に価格シグナルや長期契約は、マージナルな変化を生む可能性があります。

方向性

AMIでは、市場メカニズムを

ブラックボックスとして扱うのではなく

「企業行動との関係性を整理する対象」

として位置づけ、
「どのメカニズムを通じて、どんな影響が期待されるのか」
を説明可能にするフレームが示されると予想されます。

(ご案内)

一般社団法人アワリーマッチング推進協議会では、アワリーマッチングを通じた電力システムの実践的な脱炭素化に向け、国内外の多様なステークホルダーと継続的に情報交換・意見交換を行っています。

GHGプロトコルScope2改訂やそれに関連する国内外の諸制度・規制等に関する国際的な議論の動向を把握するだけでなく、日本の電力制度や事業実務の現実を踏まえた視点を共有し、より現実的で納得感のある制度設計につなげることを重視しています。

こうした議論の内容は、会員同士での情報共有・意見交換を通じて深化させるとともに、広報・広聴の観点から一部を対外的にも発信しています。

関係されるステークホルダーの皆様におかれましては、是非協議会への入会をご検討いただければ幸いです。

  • 入会に当たっての費用(入会費・年会費等)は発生しません(2025年12月時点。今後は規定変更の可能性があります。)
  • ただし、勉強会・イベント・セミナー等への参加や一部のレポート等は有料となる場合があります。
  • 入会に当たっては、当協議会の規程に基づき審査がございます。詳しくは「問い合わせ」欄からメールにてお問い合わせください。
  • これとは別に取材や組織内外セミナー講師派遣にも対応いたしております。詳しくは「問い合わせ」欄からメールにてお問い合わせください。