マーケット基準手法:同時同量 (2)パブリック・コンサルテーションに何が記載されているのか?

― パブリック・コンサルテーションにおける「Temporal correlation(同時同量)」条文案の読み解き

· 同時同量,MBM

Scope 2改定に関するパブリック・コンサルテーションでは、マーケットベース手法(MBM)における「Temporal correlation」、すなわち同時同量が、これまでで最も明確な形で条文案として提示されています。Standard Development Plan(SDP)が設計図だったとすれば、このパブリック・コンサルテーション文書は、同時同量を実際に標準文書へ落とし込むための最初の試作品だと言えます。

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パブリック・コンサルテーションでは、MBMの定義そのものが見直され、契約手段(EAC等)に基づく排出量算定は維持しつつ、その契約が対応づけられる電力消費との間に、時間的な相関関係を求めることが明記されています。ここでいうTemporal correlationとは、電力が消費された時間帯と、契約手段が表象する発電が行われた時間帯が一致していることを意味します。これは、2015年版Scope 2 Guidanceで用いられていた「できるだけ近い時期」という表現から、大きく踏み込んだ整理です。

パブリック・コンサルテーション本文では、MBMの定義更新として、契約に基づく算定であっても、電力消費と発電の時間的整合性、ならびに物理的な供給可能性を明示的に考慮すべきであると説明されています。この整理は、Scope 2をアトリビューショナルなインベントリとして位置づけ直すという全体方針とも整合しています。詳細はScope 2 パブリック・コンサルテーション文書に記載されています。

特に重要なのは、同時同量が「影響評価」や「回避排出量」の議論とは明確に切り分けられている点です。パブリック・コンサルテーションでは、同時同量はあくまでインベントリ算定の信頼性と比較可能性を高めるための要件として整理されており、電力調達が電力系統全体に与える影響評価は、別途Actions and Market Instruments(AMI)の枠組みで扱うことが繰り返し強調されています。この点は、パブリック・コンサルテーションの背景説明の中でも明示されています。

条文案の構造を見ると、Temporal correlationは単独の義務条項として置かれているわけではありません。Scope 2 Quality Criteriaの一部として組み込まれ、同時同量を満たさない契約手段は、MBMにおける排出係数算定に使用できない、あるいは使用範囲が制限されるという設計になっています。これは、MBMを「契約があれば主張できる仕組み」から、「一定の物理的・時間的合理性を備えた契約のみが有効となる仕組み」へと転換することを意味しています。

Quality Criteria 4 / 5 の構造整理

Temporal correlationとDeliverabilityはどのように結びつけられたのか

パブリック・コンサルテーションにおける同時同量の議論を理解するうえで欠かせないのが、Scope 2 Quality Criteria 4および5の構造です。これらは、マーケットベース手法で用いられる契約手段の品質を定義する中核的な基準であり、今回の改定で最も大きく手が入る部分の一つです。

Quality Criteria 4は、主として時間的整合性、すなわちTemporal correlationを扱う基準です。パブリック・コンサルテーションでは、この基準を更新する形で、契約手段が対応づけられる電力消費と、同一の時間単位でマッチングされていることが求められる方向性が示されています。ここで想定されている時間単位は原則として1時間であり、年単位や月単位での包括的な対応づけは、十分ではないと整理されています。

一方、Quality Criteria 5は、Deliverability、すなわち供給可能性を扱います。これは、契約手段が示す電力が、理論上ではなく、物理的にその消費地点へ供給されうる市場・系統の範囲内にあるかどうかを問うものです。パブリック・コンサルテーションでは、「同一市場境界内」または「供給可能性を実証できること」が要件として整理されています。

重要なのは、この2つの基準が独立して存在するのではなく、相互に補完し合う形で設計されている点です。時間的に一致していても、地理的・系統的に切り離された電源であれば、同時同量とは認められません。逆に、同一市場内にあっても、時間が一致していなければTemporal correlationの要件を満たしません。パブリック・コンサルテーションでは、この時間軸と空間軸を組み合わせることで、MBMの信頼性を底上げする考え方が示されています。

この設計は、「同じ国」「同じ年」といった従来の粗い境界条件からの明確な転換を意味します。特に、複数の同期系統を持つ国においては、国単位の一括調達が、そのままMBMとして成立しなくなる可能性を示唆しています。この点についても、パブリック・コンサルテーション本文および関連解説資料の中で言及されています。