マーケット基準手法:④ 標準供給サービス(SSS) (2)パブリック・コンサルテーションで何が問われているのか
マーケット基準手法:④ 標準供給サービス(SSS) (2)パブリック・コンサルテーションで何が問われているのか
「自発性のない電力」の再整理
ぐたいてきなろん
パブリック・コンサルテーション本文は、GHG Protocol Scope 2 パブリック・コンサルテーション文書で公開されています。この文書では、SSSを「企業の自発的な意思決定によらず、制度や規制、デフォルト設定によって供給される電力」と位置づけ、その取り扱いを再検討すべき対象として明示しています。

パブリック・コンサルテーションにおけるSSSの問題設定
「選んでいない再エネ」をどう扱うのか
パブリック・コンサルテーションで繰り返し示されているのは、SSSがScope 2のマーケットベース手法の前提と必ずしも整合していない、という問題意識です。MBMは本来、企業が再エネ電源や証書を「選択」した結果を反映する仕組みです。しかしSSSは、企業の選択ではなく、制度や公共政策の結果として供給されます。
この点について、パブリック・コンサルテーションでは、SSS由来の非化石電源を、他のMBM調達と同列に扱い続けることが、Scope 2報告の意味を曖昧にしていないか、という問いが投げかけられています。特に、再エネ比率が高い国や地域では、企業が特段の行動を取らなくても、低排出係数を主張できてしまう可能性があります。
これは、Scope 2が意図してきた「企業行動の可視化」という役割と緊張関係にあります。この問題意識は、GHG ProtocolによるScope 2の基本説明でも示されている、MBMとLBMの役割分担とも深く関係しています。
検討されている設計オプション
全面排除ではなく「制限付きの承認」
パブリック・コンサルテーションで注目すべき点は、SSSをマーケットベース手法から全面的に排除する案が前提とされていないことです。代わりに提示されているのは、SSSを「特別なカテゴリ」として扱い、その主張の範囲や上限を制限するという考え方です。
具体的には、SSS由来の非化石電力について、Scope 2のMBM報告において主張できる割合に上限を設ける、あるいは特定の条件下でのみ認めるといった設計が検討対象として示されています。これにより、SSSを完全にLBMに押し戻すのではなく、MBMの中で「自発性の度合いが低い調達」として位置づけることが可能になります。
このような整理は、制度間の整合性を保つという観点からも重要です。多くの国では、FIT制度や非化石電源義務化など、公共政策を通じて再エネ導入が進められてきました。SSSを一律に否定すれば、これらの制度とScope 2報告との乖離が拡大する恐れがあります。
レガシー条項・供給可能性との関係
パブリック・コンサルテーションでは、SSSを単独の論点としてではなく、他の主要論点との関係性の中で整理しています。特に、レガシー条項との関係では、これまで制度的に供給されてきた非化石電源を、どこまで既存の報告慣行として認めるのかが問われます。
また、供給可能性(Deliverability)との関係では、SSSが特定の地域・グリッドに紐づく電源である場合、その供給可能性をどのように評価するのかという問題も生じます。パブリック・コンサルテーションは、これらの論点を切り離さず、Scope 2全体として整合的に設計する必要性を示しています。
さらに、残余ミックスやロケーションベース手法(LBM)との関係も重要です。SSSをMBMでどこまで認めるかによって、LBMの役割や残余ミックスの意味合いが相対的に変わる可能性があります。この点についても、パブリック・コンサルテーションは、関係者からの意見を幅広く求めています。
パブリック・コンサルテーションが示すSSSの方向性
パブリック・コンサルテーション段階でのSSSの扱いは、「結論」ではなく「選択肢の提示」です。しかし、その選択肢の並べ方からは、GHG Protocolが目指す方向性を読み取ることができます。それは、SSSをScope 2報告から排除するのではなく、主張の意味を明確化し、他の調達手段との違いを可視化することです。
この方向性は、Scope 2改定全体に共通する考え方とも一致します。すなわち、より精緻な算定を目指す一方で、現実の制度や市場を無視しない、段階的かつ説明可能な設計を志向しているという点です。
おわりに
標準供給サービス(SSS)は、企業の行動と制度の結果が交差する領域に位置する論点です。パブリック・コンサルテーションは、この交差点をどのように整理すべきかについて、関係者の知見を集めようとしています。
SSSの扱いがどのように決着するかによって、Scope 2報告におけるMBMとLBMの役割分担、さらには企業の再エネ調達戦略の意味づけが変わる可能性があります。発電事業者、電力小売事業者、需要家のいずれにとっても、この論点は決して他人事ではありません。