サステナビリティ基準委員会(SSBJ)でのScope 2改訂の公開議論
サステナビリティ基準委員会(SSBJ)でのScope 2改訂の公開議論
2025年11月に開催された第59回サステナビリティ基準委員会(SSBJ)で、GHGプロトコルにおけるScope 2ガイダンス改訂に関する話し合いが行われました。その動画が以下のように公開されています。
会議で話し合われた内容を踏まえて以下のように考察致しました。是非、まずは上記動画をご覧ください。(なお、当協議会はサステナビリティ基準委員会とは関係がありません。)
SSBJは、日本におけるサステナビリティ情報開示の基準を検討・整備するための委員会です。国際的にはISSBを中心に基準策定が進んでいますが、それをそのまま国内に当てはめるのではなく、日本の制度や企業実務と整合する形でどう位置づけるかを考える役割を担っています。

委員には、企業実務、金融、監査、学識経験者など、さまざまな分野の専門家が参加されており、特定の立場に偏らず、客観的なで議論が行われているのが印象的です。
なぜScope 2改訂が委員会で扱われたのか
GHGプロトコルは、温室効果ガス排出量算定の国際的な基準として広く使われています。日本のサステナビリティ開示基準においても、排出量算定の方法としてGHGプロトコルを参照する構成が取られています。
そのため、GHGプロトコル側でScope 2の算定方法が見直されることは、将来的に日本企業の開示実務にも影響を与える可能性があります。今回の委員会では、そうした背景を踏まえ、「現在、国際的にはどのような改訂案が議論されているのか」共有することが目的とされていました。
誰がどのような説明をしたのか
このScope 2公開協議の概要について説明を行ったのは、衣川委員でした。説明は、GHGプロトコル側の公式資料をもとに、今回の改訂の背景、検討されている主な論点、スケジュール感などを整理する形で進められていました。
説明の中では、2015年に策定された現行ガイダンス以降、電力市場や再生可能エネルギーの導入状況が大きく変化してきたこと、それに伴い、排出量算定の「正確性」や「比較可能性」に課題が指摘されてきたことが紹介されていました。
また、今回の改訂は一度に全てを変えるものではなく、2027年頃までを見据えた段階的なプロセスとして進められていることも、丁寧に説明されていました。
理想としてはもっともだが、現実には難しさもあるという受け止め
説明内容を受けた委員のやり取りを拝見しての主観となりますが、「方向性としては理解できる」であるが「実際にどこまでできるのか」という現実的な視点も示されていたように思います。
たとえば、高村委員からは、今回の改訂案が、企業の削減努力をより忠実に表現しようとする点では評価できる一方で、各国・各地域の制度やデータ整備状況を踏まえた**実現可能性(フィージビリティ)が重要になる、という趣旨の整理がありました。
また、草野委員からは、日本の電力制度や証書制度の特性を踏まえると、国際的な考え方をそのまま当てはめることの難しさについて、留意が必要ではないかという視点が示されていました。筆者としても、時間別データや制度電源の扱いについては、実務上の整理が簡単ではないと考えております。
さらに、他の委員からも、保証(アシュアランス)を見据えた場合の検証可能性や、企業にとって過度な負担にならないかといった点について、慎重に見ていく必要があるのではないか、という問題意識が共有されていたように思います。
実務への配慮も含めて検討されている点
一方で、衣川委員の説明の中では、改訂案が単に理想論を掲げているだけではなく、負荷プロファイルの利用、一定規模以下の企業への免除、既存契約への経過措置など、実務への配慮も併せて検討されていることが紹介されていました。
この点については、委員会全体としても、「理想と現実のバランスをどう取るかが重要である」という共通認識があったように感じられます。国際的にどのような議論が進んでいるかを正確に理解し、日本としてどのように向き合っていくかを考え始めるために有意義な場であったように感じました。