(4)AMI速報:AMI(Actions and Market Instruments)タスクフォースの第11回ミーティング での議論

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2025年12月3日、GHGプロトコルの下で設置されている AMI(Actions and Market Instruments)タスクフォースの第11回ミーティング が開催されました。AMIは、スコープ2を含む従来のインベントリ会計では十分に説明できない、企業や電力事業者の行動・市場メカニズムが電力システムや排出構造に与える「結果的影響」を整理・検討するための枠組みです。

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なぜ「market instruments」の定義整理が問題になったのか

AMI(Actions and Market Instruments)は、もともと「インベントリ(排出量の配分)では捉えきれない、企業や事業者の行動・プロジェクト・市場メカニズムが、結果として電力システムや排出構造にどのような影響を与えたのか」を整理・説明するための枠組みとして立ち上がっています。

この目的設定自体は比較的明確でしたが、議論を進めるにつれて、避けて通れない問題が浮かび上がってきました。それが、企業や電力事業者が日常的に用いている、さまざまな「証書」「クレジット」「契約」を、どこまで同じ概念として扱ってよいのか、という点です。

AMIでは「行動の結果的影響」を評価しようとします。そのとき、
・どの手段が電力システム内部に作用しているのか
・どの手段が排出量の帳尻合わせにとどまるのか
が曖昧なままでは、評価のロジックそのものが成り立ちません。

Meeting #11では、まさにこの点について、ホワイトペーパーの現行表現が曖昧すぎるのではないか、という強い問題意識が複数のTWGメンバーから示されました。

EACとEnvironmental Attribute Certificatesは同じなのか

最初に俎上に載せられたのが、
“energy attribute certificates”

“environmental attribute certificates”
という用語の使い分けです。

従来の整理

これまでGHGプロトコルやEnergyTagの文脈では、EAC(Energy Attribute Certificate)は比較的はっきりした意味で使われてきました。
それは、電力1MWhに紐づく属性、すなわち発電源、発電時刻、場所、場合によっては技術種別などを表すものであり、本質的には「電力量という物理フローに付随する属性」を切り出したものです。RECs、Guarantees of Origin、I-RECなどが代表例です。

一方、実務や政策文書の中では、Environmental Attribute Certificateという表現が使われることも少なくありません。こちらは、再エネ性、低炭素性、政策的価値などを含意し、必ずしも電力そのものに限定されない、やや広い意味で使われることが多いのが実情です。

AMIの議論では、この使い分けが決定的に重要になります。
なぜなら、AMIが扱おうとしているのは「結果的影響」だからです。

EACは、あくまで電力という物理フローに結びついた属性です。一方で「environmental attribute」という言葉を使うと、結果として生じた環境便益や社会的価値まで含んでいるように読めてしまいます。このズレが、AMIの議論では致命的になり得ます。

Meeting #11では、
「EACを environmental attribute certificate と呼んでしまうと、AMIが扱おうとしている結果的影響と、インベントリ的な属性配分が混線してしまうのではないか」
という懸念が、明確な言葉として示されました。

その結果、
・EACはあくまで energy attribute に限定すべき
・environmental attribute という言葉は、より広い文脈、すなわち結果や影響を語る際に使うべきではないか、という方向性が議論されています。

これは、インベントリ会計と結果的会計を混同しないための、言語的な防波堤を築こうとする試みだと理解できます。

market instruments と carbon credits はなぜ分ける必要があるのか

もう一つ、より構造的に重要なのが、
“market instruments” と “carbon credits” を明確に区別すべきだ
という提案です。

なぜ今まで混ざっていたのか

これまでのサステナビリティ議論では、再エネ証書、PPA、カーボンクレジット、オフセットといったものが、企業の「脱炭素行動」という一つの枠で語られることが多くありました。その結果、言葉の上でも「市場的な手段」として一括りにされがちでした。

インベントリ会計の文脈では、一定程度この整理でも実務が回ってきたのは事実です。しかしAMIでは、この曖昧さが問題になります。

AMIにおける決定的な違い

AMIの基本的な問いは、
「この行動は、電力システムや排出構造をどう変えたのか」
です。

この観点から見ると、因果構造は明確に異なります。

EACやPPAは、電力市場や電力システムの内部で作用します。限界電源の運用や、将来の投資判断に影響を与え得る手段です。一方、カーボンクレジットは、多くの場合、排出量の外部補償として機能し、電力システムそのものの運用や投資に直接的な影響を与えないことが少なくありません。

Meeting #11では、
「これらを同じ market instrument として扱ってしまうと、結果的影響の議論が破綻する」
という認識が、かなり共有された形で示されています。

そのため、
・market instruments は、電力・エネルギー市場の中で作用する手段
・carbon credits は、排出量会計上の補償・中和手段
として、概念的に分離すべきではないか、という整理が提案されました。

この用語整理が意味する将来像

この議論が進むと、いくつかの重要な帰結が見えてきます。

第一に、AMIは「何でも評価する万能な枠組み」ではなくなります。AMIは、企業のあらゆる脱炭素主張を正当化するための道具ではなく、電力・市場・行動がシステムに与えた影響を説明するための枠組みとして、射程が明確に限定されていきます。

第二に、インベントリとの混同がさらに避けられるようになります。EACはインベントリ文脈、AMIは結果的影響文脈、という役割分担が、概念だけでなく用語レベルでも明確になっていきます。これは、Scope 2改定における「マーケット基準を過度に膨らませない」という方向性とも整合的です。

第三に、日本や企業実務への示唆も小さくありません。日本企業にとっては、非化石証書やトラッキング証書で何を主張しているのか、それが排出量配分なのか、影響説明なのかを、これまで以上に意識的に使い分ける必要が出てきます。

日本への影響評価

今回のAMI第11回ミーティングで示された用語整理の議論は、単なる定義の問題にとどまらず、今後の制度設計や実務運用に影響を与える可能性を持っています。とりわけ、EACやmarket instrumentsの位置づけが整理されていけば、日本における非化石証書やトラッキング制度についても、その役割や主張の範囲を改めて問い直す動きが生じる可能性は否定できません。インベントリと結果的影響をどう切り分けるのかという議論は、国際的な枠組みの中で進展しており、日本の電力・環境価値制度もその文脈から無縁ではなくなりつつあります。

(ご案内)

一般社団法人アワリーマッチング推進協議会では、アワリーマッチングを通じた電力システムの実践的な脱炭素化に向け、国内外の多様なステークホルダーと継続的に情報交換・意見交換を行っています。

GHGプロトコルScope2改訂やそれに関連する国内外の諸制度・規制等に関する国際的な議論の動向を把握するだけでなく、日本の電力制度や事業実務の現実を踏まえた視点を共有し、より現実的で納得感のある制度設計につなげることを重視しています。

こうした議論の内容は、会員同士での情報共有・意見交換を通じて深化させるとともに、広報・広聴の観点から一部を対外的にも発信しています。

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