データセンター増加と電気料金高騰――アメリカの事例から考える「アワリーマッチング」の重要性

· 電源計画,研究記事

近年、生成AIやクラウドサービスの急速な普及を背景に、世界各地でデータセンター(DC)の建設が加速しています。データセンターはデジタル社会を支える不可欠なインフラである一方、その莫大な電力需要が地域の電力需給や電気料金に与える影響について、無視できない段階に入ってきました。本稿では、アメリカの事例を紹介しつつ、データセンターと電気料金高騰の関係についての仮説、そしてその解決策としての「地域・時間のアワリーマッチング」の重要性について考察します。

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上図は、アメリカの産業用電力価格を指数化し、過去5年間の推移を比較したものです。青線は全米平均、赤線はデータセンターが特に集中している5州の平均を示しています(出典:ダブルライン)。2020年10月を100とすると、2025年10月時点で全米平均は約126、すなわち26%の上昇にとどまっています。一方、データセンターが多く立地する州では指数が143に達し、43%もの上昇となっています。

注目すべきは、2022年を境に両者の差が明確に拡大している点です。この時期は、チャットGPTの社会実装が本格化し、ハイパースケール型データセンターの建設計画が相次いで発表された時期と重なります。もちろん、電気料金の上昇要因は燃料価格、送配電投資、規制環境など多岐にわたりますが、少なくとも「データセンターが集中する地域ほど、電気料金の上昇率が高い」という相関が観測されていることは事実です。

成り立ちうる仮説:需要集中による需給ひっ迫

ここから導かれる一つの仮説は、データセンターの立地によって特定地域の電力需要が急増し、結果として需給関係が崩れ、電気料金が押し上げられているというものです。データセンターは24時間365日、ほぼ一定の高負荷で電力を消費します。これは地域の電力システムにとって「ベースロード需要の急増」を意味します。

もしその需要増に見合う発電設備や送配電インフラの増強が同時に行われなければ、需給はひっ迫し、卸電力価格の上昇や容量確保コストの増大を通じて、最終的に電気料金へと転嫁されます。実際、アメリカでは一部の州や郡において、データセンターの新規立地が系統投資や料金上昇を招くとして、規制当局や住民から懸念の声が上がっています。

データセンター忌避の動き――アメリカと日本

こうした状況を背景に、「データセンターを近隣に置きたくない」という住民運動も顕在化しています。その理由として挙げられるのが、景観や水資源の問題に加え、「電気代が上がるのではないか」という不安です。アメリカでは地方自治体レベルで、データセンター誘致に慎重な姿勢を示す事例も増えています。

日本においても事情は似ています。首都圏や関西圏、あるいは再エネ資源が比較的豊富な地域にデータセンター計画が集中する中で、地域の送配電容量や電力料金への影響を懸念する声が聞かれるようになりました。今後、データセンター需要がさらに拡大すれば、同様の「忌避」の動きが強まる可能性は否定できません。

解決の鍵は「地域・時間のアワリーマッチング」

では、この問題にどのように向き合うべきでしょうか。重要なのは、将来のデータセンター需要を前提に、同じ、あるいは近接した地域に発電所や電源を計画的に設置すること、そして必要に応じて系統を強化することです。単に電力を「どこかで作って、どこかで使う」のではなく、地域の中で需要と供給を同時同量で成立させていく視点が求められます。

ここで極めて有効な考え方が「アワリーマッチング」です。アワリーマッチングとは、年単位や平均値ではなく、時間単位(例えば1時間ごと)で、特定地域の電力需要と発電を対応させていく手法です。これをKPIとして導入することで、将来の需要増を見越した電源立地や蓄電池投資、需要側の調整(ロードマネジメント)を促すシグナルとして機能します。

長期的な需給安定化に向けて

アワリーマッチングを進めることは、単なる環境価値の可視化やCO₂削減のためだけではありません。地域における電力需給の実態を「時間」と「場所」の両面から可視化し、長期的に安定した電力供給と料金水準を実現するための、極めて実務的な手法でもあります。

データセンターは今後も増え続けるでしょう。その現実を前提に、地域社会と対立するのではなく、地域と共存し、むしろ地域の電力インフラを強靭化する存在として位置づけていく。そのための共通言語・共通KPIとして、地域・時間同時同量を志向するアワリーマッチングは、今後ますます重要性を増していくと考えます。

アワリーマッチング推進協議会としては、アメリカの事例が示す課題を他山の石とし、日本において同じ轍を踏まないためにも、アワリーマッチングを軸とした電力需給の長期的安定化について、引き続き発信と議論を深めていきたいと考えています。